掲載日:2020年11月27日(金)
みなさん、こんにちは。73期の修習生にとっては、修習生活も法律事務所への就活も大詰めとなり、大変にお忙しい毎日を送っていることかと思います。
前回の特集(就活のココロエ・採用側のホンネ編)では、「ゴリパー」さんからの熱いメッセージに対して、修習生の皆様だけでなく、法律事務所を経営されているパートナーの弁護士からも、相当の反響があったと聞いています。
今回の特集では、一歩突っ込んで、「エントリーシート・志望動機編」としまして、具体的な志望動機の文例をもとに、ゴリパーさん・タントウさんから、アツく語って頂こうと思います。それではどうぞ!
(以下は、取材を踏まえたフィクションです)
所属弁護士数十人を抱える中規模の法律事務所を経営するパートナー弁護士。
ここまで大きくするのに苦節20年。
これまで、実際に数百人の弁護士志望者を面接。仕事には厳しいが、できるだけ応募者の良い点や思いを汲み取ることをモットーとしている人情味あふれる弁護士。
趣味はソロキャンプ、好きな映画は「ラブアクチュアリー」。
法律事務所の採用担当。他業種も含めて1,000人以上の書類選考・人事面接を担当。
書類選考のスペシャリスト。エントリーシートのクオリティを瞬時に判断して、高速で仕訳するのが特技。
趣味はボルダリング。好きな映画は「グレイテスト・ショーマン」。
まあじゃあ、今回は「志望動機」に関するESの記載例見て行こうか。
設定としては、とある町弁(HPには、交通事故、離婚、労働、相続、借金問題、顧問弁護士のメニューがある)に応募するパターンな。多分このパターンの人が一番多いんじゃないかな。
「私は貴所での業務を通じて『市民の権利を守る』という目標を達成したいと考えています。そのためには、貴社が掲げるような様々な分野において、法律の最前線で成長することで、自身の弁護士としての価値も高めていきたいと考えています。
私は、将来的には自分の専門とする分野を確立して特定の分野のスペシャリストになりたいと考えています。貴所では、交通事故や離婚、労働分野をはじめとして多くの分野の業務を手掛けています。貴所に入所することで、弁護士としてさまざまな分野を経験でき、その上でじっくりと自分の適性、専門分野について考えることができるのではないか、より多くの法的な知識や経験を身に付けて成長できるのではないかと思い、貴所を強く志望するに至りました。
また、貴所のホームページを拝見しまして、貴所の先輩弁護士の明るい人となりであったり、風通しのよい職場環境も非常に惹かれるものがありました。私は、自他共に認める明るい性格ですので、貴所の雰囲気にマッチするものと考えております。
私は、貴所において、新しいことを挑戦する心を忘れずに、様々な業務に取り組んで、成長し、たくさんのご依頼者の想いを実現して、『市民の権利を守る』という目標を達成していきたいと考えています。」
まあ、こんな感じのこと書いてくる人が多い印象だな。実際はもうちょっと長い方がいいけど、紙幅の関係上例としてはこんな感じで許してな。
ありがとうございます。まあ確かにこういうESよく見ますね。ESの結論としては、成長して、自分の目標を達成したい、ですか。
そうなんだよ。こういうの見るとさ、俺の個人的な見解かもしれないんだけどさ、「なんでお前を成長させたり、目標を達成させるのに俺は給料出さないといけいないんだ」と思ってしまうわけよ。これってさ、法律事務所への就職活動だけじゃなくてさ、一般企業への就職活動でもよく出てくる話だと思うけどな。
確かによく聞きますね。前回、「仕事が増えてきたから、雇った弁護士と仕事を分担して、空いた自分のマンパワーでさらに仕事を増やして事務所を大きくしたいから」人を増やしたいんだってゴリさん言ってましたよね。この事務所側のニーズと修習生側のワードがマッチしていないですね。
おお。俺の話ちゃんときいていたんだな。そういうことなんだよ。本人の成長を通じて、どのような利益が事務所にとってあるのか、といった「採用することによる事務所側のメリット」をうまく折り込んでくれると嬉しいね。その方が、アピールにはなるのかな、と思うよ。極端なことをいうとさ、自分の成長について書くんだとしたら、自分の成長が事務所の売上げアップに繋がっているってのを書いてくれてるとすごい好印象だね。そうするとこの例の結論部分で書くことも自ずと決まってくるよね。
こっちも慈善事業でやってるんじゃないからさ。就職先って学校じゃないのよ。就職先を修習の延長線上で見てる修習生ってかなり多いんだけどさ、社会人としての自覚みたいなのは欲しいよね。もちろん、1年目の先生についてはさ、クライアントへのメールも添削するし、書面も細かく見るし、仕事の仕方も教えるけどね。
確かに、おっしゃるように「自分の話」ばかりで、「事務所側のメリット」を掲げる応募者が、思ったより少ない印象はありますね。弁護士も「サービス業」なので、お客様側のメリットをうまく訴求するセンスは求められます。エントリーシートも、ある意味、書面での競争試験なので、他の応募者と比較して「自己を採用するメリット」をうまく盛り込んでアピールして欲しいですね。
あと、これは弁護士のESによくある話題かも知れないですが、ジェネラリストとスペシャリスト論ってよく出てきますよね。
すげえよく出てくるね。まあ書きやすいんだろうね。
仮に筋がいい事件の相談がきて、それが自分が全くやったことない類型だったとしても、売上げが立つならやる人は多いだろうね。そういう意味では、弁護士ってジェネラリストなんだと思うよね。俺の意見だけど、スペシャリストになっちゃって、ある特定の類型の事件しか来なくなったらそれはそれで飽きちゃいそうだけどな。まあ、それは個人の感想だからいいか。
これもさ、前回言ったかもしれないけどさ、事務所経営者からしたら、収益部門、たくさん案件がある部門に興味がある、やりたいです!っていう奴の方がとりたいよね。
もしかしたら、修習生としては大卒の新入社員のような気持ちで応募をしてきて、採用側は年齢的に27歳くらいの人が多いので中途採用の人をとるような感覚なのかもしれませんね。修習生としては、修習中に3年くらい働いたような気持ちでESを書くといいかもしれませんね。
そういう整理もできるかもしれないな。俺は、どのように表現するかはおいておいて、「私はここで働いて、売り上げに貢献したい」っていうのを基礎にするのがいいと思うなあ。異論は認めるよ。
法律事務所を目指す修習生に対して、志望動機やエントリーシート全体について、パートナーとしての立場から、ちょっとまとめて、アドバイスを頂けますか。
そうだね、一旦これまでの話をまとめてみようか。
エントリーシート全般について、大前提として私が思うのは、『弁護士は文章を書くことがメインの仕事なので、自分の文章力をアピールする場だと思え!』ということだね。どこかの誰かのエントリーシートを写すよりも、できるだけ自分なりに考えたオリジナルな文章や書面の構成をアピールして欲しい。
あとは「志望動機」そのものについて、大切なのは「自分はこのような分野に興味があって、仕事をしたいと思っているところ、貴事務所はまさにそのような仕事を多く扱ってらっしゃるので、是非ともここで働きたい」というように、自分の将来のビジョンと事務所のビジョンがマッチしている点を強調して書くことだね。その方が、事務所を選んだ必然性は感じられていい。
その反面として、よくある例としては、「将来的にはスペシャリストになりたいんだけど、その過程でゼネラリストにもなりたい、町弁ならそれができる」みたい一般論を書く応募者もいるね。悪くはないけれど、読み手からすると「なんかとりあえず働きたいです」って言っているようにしか思えないことが多いので、読み手には刺さらないね
自分のやりたいことと事務所の方向性が一緒であることがシンクロしている、だからこそここで働きたい、ということをうまくプレゼンするセンスが必要という感じですね。
あとは、大量の応募書類を審査しなければならない立場からは、文章の段落分けやナンバリング、見た目の体裁といった「文章の形式面」には、今一度注意してほしいですね。
司法試験受験時の論文指導や、修習の起案指導で、このような点については、徹底的に叩き込まれていると思うので、見た目や体裁が整っていない書面については、その時点であまり審査官には、熱心に読んでもらえない可能性は高いですね。まさに「形式主義」といったところですが…
あとは、特に指定のない限りは「手書き」でなくても全く構わないので、むしろインデント機能を駆使して、キレイに段落分けとかをしてくれるほうが、読みやすくて好感が持てますね。
以上、志望動機についてのゴリパーさんとタントウさんのコメントでした。
司法試験では、法務省が発表する試験出題の趣旨をとらえた答案は、他の答案と比べて点数がハネると聞きますが、エントリーシートでも、採用側の「ホンネ」をとらえたシートは、書類選考を通過しやすいのではないでしょうか。
今回のゴリパーさんとタントウさんのやり取りを読んでいても、ただ自分の書きたい内容を書くのではなく、いかにその法律事務所に自分がマッチするかをうまく書面上でプレゼンするセンスが求められるように思いました。
次回は、「エントリーシート・自己PR編」をお送りしたいと思います。どのような自己PRが採用側に好感が持たれるのか、または、嫌われるのか(笑)、採用する側の立場から、また鋭い意見を頂ければと思います。
次回もどうぞお楽しみに!