掲載日:2019年12月3日(火)
いよいよ12月から73期の司法修習が始まりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
ようやく修習先の住居も決まり、契約書のやりとり・引越し作業、役所での住所変更の手続等々、大変お忙しく過ごしていることかと思います。
さて、前回の特集では、「実務修習」のうち「裁判修習(民事・刑事)」を実際に体験された先輩方の声を集めてみましたが、今回の特集では同じ「任官」先でも、「検察修習」についての先輩方の声を集めてみました。
裁判所であれば、弁護士になった後も訪れる事は多いかと思いますが、検察庁や検察の組織について体験することができるのは、修習期間中だけになる方も多いものと思われます。なかなか外部からは伺い知ることが難しい、検察庁での修習の実態について、先輩の「生の声」を修習前に聞くことができるのは、中々貴重な機会といえそうですね。
被疑者の取調べをした事件の件数について
被疑者の取調べをした事件の件数については、1~2件というケースが多くありましたが、多い方では3件以上というケースもありました。東京・大阪などの大規模の修習地の場合、事件数が多い分、修習生も多いため、必ずしも担当として割り振られる事件数が多くなるものとはいえないようです。
いずれにせよ、裁判官・弁護士を目指す方にとっては、修習中だけの貴重な経験となりそうです。
配転された身柄事件の数について
全体的には「1~2件」という件数が多かったですが、「0件」だったという結果も3割近くもありました。こちらについては、運の要素も大きいようですね。
終局処分に関与した数
全体的には「1~2件」という件数が多かったですが、「0件」という結果はほとんどない状況でした。幸い修習生のほぼ全員が体験できるようですね。
修習を経験して「検察官」になりたいと思ったか
- (アンケート結果)
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- なりたいと思った 10.2%
- ややなりたいと思った 21.0%
- どちらともいえない 8.9%
- あまりなりたいとは思わなかった 22.3%
- なりたいとは思わなかった 37.6%
傍聴した裁判員裁判の数
◆「なりたいと思った」「ややなりたいと思った」方の理由
- 「警察官への捜査を命じたり、具体的な事件についての権力性を感じるのが検察修習でした。刑法・刑訴法が好きだったらば、それを存分に活動できる仕事です。その一方で、誤った判断をしないように、不法に対応するために、しっかりした組織作りがされていることを実感します。組織の窮屈な感じは肌に合う・合わないがあると思います。(60期台)」
- 「立法作業や、訟務など、思ったよりも仕事の幅が広いこと。検察官のキャリアが、後の弁護士としての仕事にも生きること。書面や法廷での立ち振る舞い等についての研修の機会が多くあり、鍛えられる環境が整っている。(70期台)」
- 「検察官は刑事裁判に特化したプロです(訟務検事などもありますが)。刑事弁護を行う弁護士との差をすごい感じる瞬間が多くありました。ラーメンに例えるなら、弁護士は街の中華料理屋が作るラーメン、検察官はラーメン専門店が作るラーメンぐらい違うと感じました。そのようなプロ集団の一員になることの憧れは刑事裁判を見るたびに膨らんでいきました。(60期台)」
- 「当時は修習生が少人数だったからなのか、すべての修習生が身柄・在宅合わせて全員が5件以上の取り調べを担当させてもらうことだできていた。そのため、様々なタイプの被疑者の取り調べを行うことができたため、非常に貴重な経験となった。(修習生なのに、なぜか勾留満期に追われる状況もあった)そのような修習を通して、検察官の職責を改めて実感し、やりがいのある仕事だと考えるようになった。(60期台)」
- 「正義を貫ける仕事であり、また、証拠の収集等も知的好奇心をくすぐるなどの点が魅力的でした。法曹を目指した当初の法曹像に法曹三者の中では一番近いとも感じ、修習を通じ、検察官になりたいという想いは一段と強くなったように思います。(60期台)」
「なりたいと思った」「ややなりたいと思った」方の割合は、アンケート全体のおよそ30%でした。裁判官のアンケートのは約15%でしたので、その約2倍になります。実際に修習を経験した方の中では、裁判官よりも、検察官の方に魅力を感じられる方が多いようですね。
検察官になりたいと思った理由として、公益の代表者として社会正義の実現を目指すことができるという点、正義を貫けるという点を挙げられた方が多くいらっしゃいましたが、受験生時代に刑事系の勉強が好きだった方にも、とてもやりがいを感じられる職場のようです。
◆「どちらともいえない」方の理由
- 「検察修習で感じたのは、検察官は、組織的であり、上下関係が厳しく、いかに上司の決裁を取れるかが仕事の中心にあるような雰囲気を感じました。その分、判断を間違えることは少ないですが、自分がその中に入って仕事をしたいかというと、そこまでのことは感じませんでした。また、検察官は、常に犯罪者と対峙しなければならないので、自分の性格にも合わないと思いました。(60期台)」
- 「上下関係が厳しそうな雰囲気がぷんぷんしていた。自由な発想や事件処理はおよそ望めそうになく、組織に縛られる感がとても強かった。実際に接した検察官はみな良い人だったし、そこまで堅苦しい人はいなかったが、実際にその組織に属すると考えると二の足を踏むという印象だった。(60期台)」
- 「ヒーローという某アイドルが主役のドラマを観て、検察官カッコいいと思ったので検察官になるのもありかと思った。しかし、私は某アイドルのように行動派ではないし、真実を知りたいというよりも楽したいと思うタイプだったのでその時点でヒーローにはなれないと思った。実際の検察官に某アイドルに近いくらい真実を追い求めてる人がいたが、理想とは違った。仕事も単調そうだし、稼げなさそうだし、楽でもなさそうだからないかなと思った。(70期台)」
正義を貫く「ヒーロー」としてのイメージと捜査現場でのハードワーク・体育会系と言われる組織内での人間関係といった現実の狭間で、悩まれる方が多いようですね。
◆「あまりなりたいとは思わなかった」「なりたいとは思わなかった」方の理由
- 「閉鎖的で独自のルールや文化があり、最も組織からの同調圧力を感じ、息苦しかったです。上命下服感がすごかったです。フランクで素敵な検察官の方や、女性検察官、事務官が活躍しているのは魅力的でしたが、やはり強い使命感や思想をお持ちの方々の組織だと感じました。(70期台)」
- 「独任制官庁といいつつも、決済制度等やはり上下的なつながりが強いように感じた。また、多少正義感的な思考を持たれている方もいたように思え、その点が自分には合わないと感じたため、検察官にはあまりなりたいとは思わなかった理由だった。ただ、他方で、弁護士よりも、組織的に裁判に関与しており、全体として一つのことを行おうとする点には、魅力を感じた。(70期台)」
- 「決裁制度が厳しいと感じた。何をするにおいても、上の人の決裁が必要で、仮に検察官になったら、自身に裁量が認められないのではないかと感じてしまった。また、転勤が多く、その地域に落ち着くことができないのがネックだと感じた。(70期台)」
やはり、検察特有の上下関係や規律の厳しい組織である点を挙げている方が最も多くいました。アンケートには、他にも昭和を感じさせるような(?)上下関係の厳しさに関するエピソードもいくつかありました。社会正義の実現のためには、厳しい内部統制が求められる組織なだけに、息苦しさ感じてしまう方も多いようですね。また、裁判官と同様に、転勤が多いことを挙げる方も多くいました。
一方、そのような理由だけでなく、「全く反省の色がない被疑者を目の当たりにして憤りを感じ、処罰の必要性を考えたことがありましたが、取調べの流れ・検察官の思考等を実際に見聞きした結果、被疑者・被告人の弁護を行う方が自分の性分に合っていると考えるに至ったから。(60期台)」というように、検察官と弁護士の役割の違いから、検察官ではなく、弁護士の道を選ぶことを決められた方もいました。
まとめ
検察修習についてのアンケートは以上でした。
検察官は、「秋霜烈日」の検察官記章(バッジ)に表現されているように、被疑者や被告人に対してだけでなく、自分自身に対しても厳しく、清廉であることが求められます。まさに「公益の代表者」として、最高レベルの厳格さと誇り高さを求められる非常に厳しい職業だと思います。
そのため、検察庁での実務修習も、非常に厳しい経験をあえて積まそうとする(?)ものになっているものと思われますが、そのような厳しさの中で、検察官としての職務のやりがいと職務に伴う厳しさに対する覚悟を持つことのできた修習生の方が、検察官になられていることもわかりました。
73期の修習生の中からも、数多くの検察官が誕生すると思いますが、そのような素晴らしい覚悟を持って、国民のために奉仕されようとしている方々を私達も陰ながら応援したいと思います。
次回は、「弁護修習」についての先輩方の生の声をお届けする予定です。
どうぞお楽しみに!