「分野別実務修習」先輩からのアドバイス!(1)裁判修習編

先輩からのアドバイス
 だんだんと暖かい日が続くようになり、時には汗ばむような初夏の陽気も感じられるようになってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 新型コロナウイルスの影響で、開始の遅れた本年度の司法修習ですが、「導入修習」も終盤となり、次の「分野別実務修習」を控えて、緊張していらっしゃる修習生の皆様も多いかと思います。
 特集では、気になる「分野別実務修習」について、裁判修習(民事・刑事)、検察修習、弁護修習について、実際に修習を体験された先輩方の声を集めてみました。今回は「裁判修習」についてになります。
 アンケートでは、「判決起案の数」や「裁判員裁判の傍聴数」といった司法修習の現場を体験した先輩方だからこそ知っている情報をはじめ、「(実際に)修習を経験して裁判官になりたいと思ったか」といった本音のコメントから、「裁判修習に向けた修習生へのメッセージ」といった先輩方から合格者へ向けたメッセージまで、先輩方の「生の声」をお届けいたします。
 なお、新型コロナウイルスによる影響を受ける前の司法修習のデータがほとんどとなるため、本年度の司法修習とは実態が異なる部分があるかしれませんので、予めご留意頂ければと思います。

判決起案の数について

 東京・大阪の他、札幌・千葉・前橋といった修習地では、判決起案が3件以上になるところが多かったようです。一方、その他の地方都市では、1~2件に留まるケースも多いようですね。
 もっとも、この点に関しては、修習の期によっても差があるところかと思いますので、一旦の目安にして頂ければと思います。

傍聴した裁判員裁判の数

 裁判員裁判については、そもそもの事件件数がそれほど多くないためかもしれませんが、特に修習地間での大きな違いはなく、ほとんどの修習地が1~2件という結果でした。

修習を経験して「裁判官」になりたいと思ったか

(アンケート結果)
  • なりたいと思った  4.5%
  • ややなりたいと思った  10.3%
  • どちらともいえない  11.6%
  • あまりなりたいとは思わなかった  26.5%
  • なりたいとは思わなかった   47.1%

任官したいと思ったか

◆裁判官に「なりたいと思った」「ややなりたいと思った」方の理由

  • 「豊富な事件に触れることのできる裁判官の仕事は、知的好奇心旺盛の自分にとってはかなり魅力的に映った。刑裁の実務修習において、配属部の部長がすばらしく人格者であって、こういう上司の元で働きたいと思った。(60期台)」
  • 「裁判官の仕事内容については、裁判傍聴のほか、ロースクールで教鞭をもたれていた裁判官等からある程度お話を聞いていました。実際に裁判修習をしてみたところ、裁判官の裁定者としての悩みや、事案を中立的な立場から考え、法的な主張を整理したり、よりよい解決を考えることについては面白さも感じました。その一方で、判断に悩むことも多いことについては、難しさも感じたものです。『裁判官も人の子』であるということを実感したのとともに、客観的な立場から事案をみて、結論めいた判断を示すことができる権力性には、やみつきになりかねないほどの魅力を感じました。(60期台)」
  • 「刑事裁判に関しては非常に魅力を感じました。自白事件も否認事件も双方にやりがいを感じました。自白事件については、被告人の反省や今後のことなどを考え量刑を考えるというのはやりがいがあります。否認事件に関しては、言わずもがな、人権も守れる最後の砦となり、万が一にも間違えてはならない仕事です。犯人性を争う事件を運よく見れたため、緊張感のなか、事実認定起案を書くことができました。(70期台)」

 以上となりますが、「なりたいと思った」「ややなりたいと思った」方の割合は、全体のおよそ15%でした。
 実際に指導を受けた裁判官の「人柄」に感動して、修習中に改めて裁判官を目指すようになった方の意見も多く、その点がとても印象的でした。
 また、法曹三者の中でも、最終的なジャッジを担当するため、法解釈の最前線を担うという点に、非常にやりがいを感じる方も多くいるようでした。

◆「どちらともいえない」方の理由

  • 「判断をしたり訴訟指揮をしたりすることについては興味があったが、他の裁判官の起案の速さと量を見て、狭い裁判所の中でずっと起案を続けることになると思った。結局内向きになってしまうので、色々なものを実物で見ることはできないという点で躊躇わざるを得なかった。また、海外への留学希望があったため、向かないと思った。(60期台)」
  • 「民事は、本人訴訟が大変。意味不明な事案を処理していかないといけない。本人さんが裁判所に乗り込んできて、騒ぐのもよく見た。代理人が就いていても意味不明な主張をする人がいるから、それを解きほぐして処理していくのは大変そうだった。
    刑事は、件数がとにかく多い。正直、見逃しや間違い、冤罪が生まれても仕方がないだろうなと思った。人の人生を左右する判断の責任は負えないと思った。(70期台)」
  • 「やはり法曹三者の中でも判断権者であるがゆえに最も地位が高いように思え、その点は魅力的である。しかし、ずっと裁判所の中で記録を読んだり起案をしたりすることがほとんどで、活動の幅が狭いように思える。検察官ほどではないが組織の縛りがあり自由が少ないこともデメリットであると感じた。(70期台)」

 以上となりますが、実際の裁判修習を経て、理想と現実のギャップに悩まれる方も多かったようです。
 例えば、「私が法曹を目指したきっかけは、『家栽の人』という漫画を中学の時に読んだことでした。そのためか、自分の中で無自覚に裁判官への憧れが強くなっており、裁判官の現実の姿に対してどうしても失望を感じずにはいられませんでした。(60期台)」というコメントのように、マンガやドラマで憧れていた裁判官のイメージと実際のイメージとの違いに戸惑う方も見受けられました。

◆「あまりなりたいとは思わなかった」「なりたいとは思わなかった」方の理由

  • 「多種多様な事件を見れるという意味では知的好奇心はくすぐられる職業だと思ったが、やはり組織の人というイメージが強かった。当該地方の書記官ともうまく人間関係を築く必要があり、人間嫌いの自分としては一生この職業を努めることはなかなか難しそうだというのが第一印象であった。(60期台)」
  • 「当事者の主張を整理したり、正確な法律の適用を考えたり、証拠からの事実を認定したり、いずれも極めて負担の大きな作業であるにもかかわらず、手持ちの案件数が多くて大変そうと感じたから。じっくりと考える間もなく、ひたすら日々の訴訟進行や起案等に追われるイメージをもった。(60期台)」
  • 「年齢的に難しいと感じました。また、転勤が必須なので既婚者の自分には難しい問題でした。同期の裁判官志望の人たちと話してみると、明らかにモチベーションや熱量が違うことにも気付かされ、『もはや、裁判官志望と口に出すのもおこがましい』ように感じてしまいました。(70期台)」

 年齢の問題に加えて、裁判所という組織の中で務めていくことに対する悩み(ある意味「お役所」であることに由来する悩み)が多く見受けられました。
 また、転勤が多いため、「全国転勤がある時点で、自身の将来像になじまないと考えた。(70期台)」というコメントも見受けられました。

まとめ

 裁判修習についてのアンケートは以上でした。
 憲法76条3項は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と定めています。法律の勉強を始めた時に、この条文を知って、「自らの信念に従って事件を解決する」という裁判官の誇り高い職業に、私も初学者ながら感銘を受けたことを覚えています。
 もっとも、実際に裁判修習を経験すると、そのような誇り高い職業の素晴らしさを感じると同時に、裁判所という大きな「組織」の中での組織人としての苦悩に直面する様子を見て、修習生の心も揺れているようですね。
 また、修習中の成績も、かなり優良であることを要求されるようですので、裁判官を目指すことは、中々に「イバラの道」のようですね。

 次回は、「検察修習」についての先輩方の生の声をお届けする予定です。どうぞお楽しみに!

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